こまぎれ
「いやその……」
さすがに言い淀んだ。いきなり核心に触れられて内心後ずさりした。本件に対する説明が不足しているのは自覚していたが、まさかここまではっきりと言語化されるとは。まるで勝ち目がない。まさに絵に描いたような〝たじたじ〟である。我ながら情けないと思うが、一方で仕方がないとも思う。そりゃあ、あの時ああしていれば、という場面はいくつか思い浮かぶが、どれも後の祭り。結果論の後出しジャンケンだ。「あの時ああしてれば」と言っても、「その時はそうしなかった」のだから、それが全てである。過去を想起して過去の選択を悔いる行為は建設的ではない。時間旅行でもしない限り過去は変わらないし、第一、過去への遡行が不可能であることは特殊相対性理論に基づいて証明されている。これはもちろん戯言だ。笑ってくれて構わない。むしろ進んで笑って欲しい。さもないと羞恥で顔面が破裂する。ピュアな心も破裂する。軽はずみな言葉遊びで自爆するのは僕の悪い癖だ。
――ともかく。
「まあなんだ、確かに秘密結社とは言ったが、それは少しばかり過大表現というか、羊頭狗肉というか……」
一呼吸おいて、言う。
「要は浪漫だよ」
誤魔化せただろうか。
「耳と爪、どっちがいい?」
誤魔化せなかった。
滅茶苦茶怖い。およそ堅気の発想ではない。戦場を駆け、幾度となく死地を潜り抜けた歴戦の戦士のやり口である。心まで鋼鉄に武装する乙女だ。あと耳と爪とでは価値が釣り合ってないだろ。
「あ、両手両足の爪よ」
容赦が無かった。これを機に巻き爪が治るといいな。